この水浅黄の帷子はわたしの祖父の着た物である。祖父はお城のお奥坊主であつた。わたしは祖父を覚えてゐない。しかしその命日毎に酒を供へる画像を見れば、黒羽二重の紋服を着た、何処か一徹らしい老人である。祖父は俳諧を好んでゐたらしい。現に古い手控への中にはこんな句も幾つか書きとめてある。
「脇差しも老には重き涼みかな」
(おや。何か映つてゐる! うつすり日のさした西窓の障子に。)
 その小紋の女羽織はわたしの母が着た物である。母もとうに歿してしまつた。が、わたしは母と一しよに汽車に乗つた事を覚えてゐる。その時の羽織はこの小紋か、それともあの縞の御召しか? ――兎に角母は窓を後ろにきちりと膝を重ねた儘、小さい煙管を啣へてゐた。時時わたしの顔を見ては、何も云はずにほほ笑みながら。
(何かと思へば竹の枝か、今年生えた竹の枝か。)
 この白茶の博多の帯は幼いわたしが締めた物である。わたしは脾弱い子供だつた。同時に又早熟な子供だつた。わたしの記憶には色の黒い童女の顔が浮んで来る。なぜその童女を恋ふやうになつたか? 現在のわたしの眼から見れば、寧ろ醜いその童女を。さう云ふ疑問に答へられるものはこの一筋の帯だけであらう。わたしは唯樟脳に似た思ひ出のを知るばかりである。
(竹の枝は吹かれてゐる。娑婆界の風に吹かれてゐる。)

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4月 30th, 2012

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